Sanlitun VILLAGE North Area EAST

●プロジェクトの経緯
2005年の夏に北京のある開発商から私に連絡があり、日本人で商業施設の設計の得意な有名建築家を紹介してほしいという話があった。私の方で何人か日本で実力のある建築家に接触したところ、隈研吾氏の反応が最も早く、施主も興味をもったので隈氏にこの計画の主建築師の業務が委託された。新三里屯プロジェクトは三里屯路に面する北区と南区の2つの敷地からなっており、どちらももともとは香港の設計事務所がマスタープラン(劃画設計)を作成していた。時間が限られていたので南区は香港の事務所のマスタープラン設計をそのまま利用して外国人設計者が外壁だけを詳細設計し、北区は隈事務所でマスタープラン設計をやりなおして、各建物の設計を外国事務所に分割してさらに細かく委託することになった。私たちBMAは北区の東棟の設計を受け持っている。北区は4つの異なる外国事務所(隈、Shop、Lo-tek、BMA)が設計する建物が、中庭を囲いこむ形で配置されている。私たちの担当した東棟は延床面積(建築面積)約一万平米で、4階建て高さ18m長さ100mの建物である。

●設計概念
私たちの北区東棟の設計の基本概念は「水晶立面(水晶立面、中国語も同じ)=jelly façade」という考え方である。これは厚みのある透明な空間で建物の両側をサンドイッチするというもので、約17mの幅のコンクリートの主体フレーム(混擬土框架結構)の東西両側に、3-4mの厚みの内部空間の水晶立面をくっつけて外観を形成している。建物は1、2階が商業、3、4階がオフィスなので垂直方向には2つに分割され、各テナントは水平方向には13mの幅で8つに分割される。長さ約100mの建物立面が2x8=16テナントに分割されるが、それぞれのジェリーファサードの厚みを変えることで、全体にデコボコした東西立面が現れている。
16の各テナントの立面は幅が13mで高さが9mになるが、その中にさらに1つずつ小箱が配置されている。1、2階のテナント立面では小箱が1階の床に置かれたように配置され、3、4階のテナント立面では小箱は屋上から吊られたように配置されている。実際のジェリーファサード部分は鉄骨造で、小箱も鉄骨でできており、これらの小箱は構造的には外観と同じように、1階の床に置かれているものと屋上から吊られているものからなっている。
設計上の課題は2つあった。1つは商業とオフィスという全く異なる機能(効能)が1つの建物に同居していることをどう考えるかということだった。商業施設は高級になればなるほど閉鎖的になり窓が減り外からは中が見えない内部空間になる。一方でオフィスは自然光を取り入れた居住性の高い空間の方が高級なものとして売りやすい。閉鎖的な商業と開放的なオフィスをどうやって1つの建物に同居させるかという問題である。「水晶立面」は内部空間と外部空間の間に挟まれた3-4mの厚みのある緩衝空間であり、半分閉じているような、半分開いているような内部空間である。この緩衝空間が、商業空間にとってはエントランスホールやショーウインドウ(橱窗)のスペースとして機能し、オフィスにとっては公共廊下や小会議室として機能することで、閉じたり開いたりだけでない中間的な空間になっている。こうした「水晶立面」を外壁部分に採用することで、立面全体が商業部分とオフィス部分ではっきり区別されない、2つの異なる機能が外観上は区別できないような状態をつくることができた。
もう1つの課題はテナントの独立性をどう保つかという点だった。高級テナントは本来単独で自分の店(路面店)を持つのが理想だが、北京の中心部で小規模の単独建築は少ないので、ほとんどの国際的なブランドは大きなビルの一テナントとしてビルに入居してくる。テナントはビルの一部の空間を使用しているだけだが、高級であればあるほど外からみてなるべく独立した、ほかとはっきり区別された立面を欲するものである。ビルを開発した開発商から我々設計側には、テナントごとになるべく独立性の高い外立面にしてほしい、という要求があった。「水晶立面」は各テナントごとに凹凸をつけることで、その独立性を確保している。外からみれば、「ここが私の店」、とか「あそこが私のオフィス」というのがはっきりわかる外観立面になっている。

●プロジェクトの位置づけ
おそらく世界的に見ても、大都市の中心部で、これだけ様々な個人の建築家が関わって、建築上の野心的な挑戦を実現させた商業街は少ないだろう。東京でも都心の商業再開発は盛んだが、どれも個人の建築家の参加する余地は少なく、大企業設計事務所の習慣化された設計手法でつくられているために、「清潔で安全だけれど、どこかで見たことがある商店街」になってしまっているように思う。グローバリズム(全球化)の進展はこの問題をますます深刻化している。商業開発が高級化すればするほど、資本を多く投下すればするほど、開発側はリスクを避けるために習慣化された手法に依存するようになる。結果として、その場所の特性や建築家の個性は消失し、世界のどこかほかの国で見たのと同じような商業開発になっていってしまうのである。今回のこの新三里屯プロジェクトは、うまく個人の建築家のアイデアを取り入れて、習慣化された設計手法を採用しなかった施主の勇気によって、世界的に見ても独特な商業開発事例になっていると言えるだろう。




プロジェクト名:
三里屯VILLAGE北区イースト
設計:
北京松原弘典建築設計諮询有限公司
設計担当:
松原弘典、山岡淳、房亮
所在地:北京市三里屯
建築面積:2080平米
延床面積:10436平米
構造:RC+S
設計期間:2005年7月-2006年3月
竣工:2007年10月
施工:北京建工集団
施主:北京国峰置業
撮影:舒赫