Hualin School

●プロジェクトの発端
本活動は、2008年5月12日に発生した四川大地震をうけ、被災者向けの仮設住宅を設計建設するという目標で始まったが、結果的には住宅ではなく小学校の仮設校舎をつくるというものになった。地震後4ヶ月というかなり短い期間で素早く実際の建物を実現させた点、紙と木板いう完全にリサイクル可能な素材を現地調達して建設した点、日中のボランティアが協働して建設に関ったという点で十分に意義のある救援活動になったと思う。
本プロジェクトが動き始めたのは、地震の翌日の5月13日の早朝、慶應義塾大学SFCの坂茂さんから私へ送られてきた電子メールからだった。坂さんは紙管を使った建築で世界的に有名な建築家で、ハノーバー万博の日本館を紙管で実現させているし、神戸の震災やスリランカの津波などの震災後に、救援のための仮設住宅を世界中で建設されてきた人でもある。慶應大学SFC でご一緒させていただいてもいるその坂さんから、四川大地震でだいぶ被害が出ているから、大学の坂先生と私の研究室で共同して、学生のボランティアを組織して救援活動を行いませんかという内容のメールだった。中国を拠点に設計活動をしている者としてなにかできないかと思っていたところに、これなら日本の大学と中国の設計事務所の両方を活用しながらご協力できるのではないかと思って、即座に協力を約して活動を開始させた。成都は四川省の省都である。今回の地震は四川省北部が震源地で、成都はそれほど大きな被害は受けなかった。それでもあえてこの都市で地震救援活動を行ったのは、大学ベースの救援活動なので現地に大学のある都市を探した、ということに加えて、これから被災地ではすぐに後方支援が必要になるだろうし、余震も続く危険な場所に外国人である我々が危険を冒して入って行くよりは、後方で支援をする側にまわるほうが、役立てる部分も大きいのではないかという判断があったからである。

●華林小学の建設工事
設計内容としては、仮設校舎は直径240mm、厚み20mmの紙管を主体構造としたアーチ構造とし、4本の紙管からなるアーチを木製のジョイントで連結して基本的なフレームを構成するものにしている。教室の側面には、地元で安価な材として利用されている塩ビ製の簡易な引き戸とサイドパネルからなるサッシをはめ込み、教室間は防火構造の境界壁とした。屋根はポリカーボネイトの波型の半透明シートを葺き、丸く穴を開けた野地板から採光がとれるように計画した。屋外に配置する家具もボランティアによる製作とした。紙管を主体構造とすることについて、法規的な扱いはどうなっているかとよく聞かれるが、この小学校校舎は仮設校舎扱いとされているので、とくに面倒な恒久建築としての確認申請などは経ていない。紙管構造なので加工が容易でありかつパーツにわけて施工ができるので効率のよい工事をめざすことができたし、日中の学生と教員で混合チームをつくり、3棟を競わせる形で作業のスピードアップを図るなどした。当初は8月31日までに工事を完了する計画であったが、実際にはやや遅れて9月11日に竣工式を迎えることができた。完成までには約40日、延べ120人のボランティアの参加があった。校舎は竣工日当日からただちに使用が開始され、今も子供たちに使われている。

●必要なひとにわたすための建築
坂さんがこのプロジェクトの途中で何度か言っていた、「歴史的に言って建築家はパトロンのためにモニュメントを作っていたわけだけれど、そうでない建築家のありかたをこうした仕事を通じて実現する事ができる」。これは確かにそうで、現代社会でさえ多くの建築家の仕事は経済的な行為の中で政府やデベロッパーのためにその権威をうらづけるための仕事をすることから逃れられないでいる。同じようなことを竣工式のシンポジウムで香港からの建築家が言っていた、「この地震を通して多くの中国人がはじめてボランティアに興味をもち、建築家は商業的なだけでない、社会的な立場としての自分の職能の意味に気付いた」と。住む人がわからない仮設住宅から使う人が見える仮設教室にプロジェクトが移った時に、私はこのことをはっきりと自覚する事になった。建物が必要なひとにそれを直接わたすことができたらどんなにすばらしいだろう。個人住宅のプロジェクトがほとんどない中国ではこうしたことは実はとても稀有なことなのかもしれない。使う相手がはっきり見える建築、必要なひとにわたすための建築をつくる機会は、自分から作っていかないとそう簡単には出会えないということを、このプロジェクトを通して改めて強く認識することになった。




プロジェクト名: 
成都市華林小学校紙管仮設校舎
建築設計:
慶応義塾大学SFC坂茂研究室+松原弘典研究室
設計担当: 
坂茂 原野泰典 松原弘典
家具設計:
慶応義塾大学SFC松原弘典研究室
設計担当:松原弘典
所在地:四川省成都市
建築面積:614.4平米
延床面積:614.4平米
構造:紙管構造(一部木造)
設計期間:2008年7月
竣工:2008年8月-2008年9月
施工:
慶応義塾大学SFC坂茂研究室+松原弘典研究室、西南交通大学、成都市成華区教育局教員ボランティア
撮影:
李俊、慶応義塾大学SFC坂茂研究室