建築は自分のためにつくる

●コンゴにセルフビルドで学校をつくる
きっかけは大学でのささやかな交流で、コンゴ出身の教員がいずれ帰国して実家に先進的な学校を作って運営したいという話からだった。教育メソッドを専門とする研究室がそのための学校教育プログラムを作り、我々が建築のハードを設計しましょうとなった。
コンゴ民主共和国(旧ザイール)はアフリカで3番目の広大な国土を持ち、地下資源も豊富な国である。長く内戦が続いていたが、西部の首都キンシャサは比較的安定しており、東部での内戦も終息しつつある。これからの成長をひかえている反面、インフラは未整備で初等教育はほぼ民間に依存している。アカデックス小学校もそうした私立校の1つだ。
現地の施工技術や建材の流通状況を調べると、壁を現地の人たちがつくり,屋根を日本人がつくりに行くという形なら我々も施工にも関われそうだと見極めた。2008年夏に初めて現地を訪問し、その後日本で描いた図面を送ってコンゴ側で日干しレンガの壁を立ててもらい、2年目の2009年夏に日本の学生が渡航して現地のヴォランティアと木架構をかけた。1棟目が完成し開校式も行った。全工程を自分たちで材料を調達し建設するというセルフビルドで実施した。
ここで感じたのは、セルフビルドが「自分でつくる」というだけではなく、「自分のためにつくる」という意味もある、ということだ。「自分でつくる」のはどうしても自分の趣味範囲内の行為になりがちだが、「自分のためにつくる」というのは、実は建築を作る行為そのものの意味に関係してくることだと思う。
このように考え始めたのは,同じく大学の関係で坂茂氏と2008年夏に中国成都市で華林小学を建設したときからである。さらにコンゴで現地の協力者たちと向き合って、セルフビルドが「自分のためにつくる」ことの可能性を提起していることに改めて気付かされた。それは一種の,建築を必要とする人たちの強い結合への気づき、とでも言えるようなものだ。マーケットを楯にして顔の見えないマネーのために架空の消費者に建築するのとは違う、自分が必要なものを真剣に考えている人に向かって直接建築すること。セルフビルドの真の価値は、作り手が充実感を得られるとかローコストにできるとかいうところにはなく、実はこの真剣さの交流にこそある。さらに広い視点に立てば、「建物」が「建築」たるためには、そうした真剣さ──いかに建築を自分のものとしてとらえられるか──を施主や設計者や利用者が持っているかにかかっている、とすら私は思う。

●「3つのない」建築
建築は「自分」のためにつくるものだ、あるいは「自分」のためにつくられたものだけが建築だ、とも言える。施主はもちろん「自分」に必要なものを望み、設計側も「自分」がいいと思えるものを構想する。その場所が好きな「自分」を持つ利用者があつまってくる。設計行為とはそうした各「自分」をつなぎとめてバランスをとることに他ならない。アカデックスの場合は、アフリカに行ってみたい、日本人と話をしてみたい、現状をなんとか変えたいと思っている「自分」たちのあつまりだった。アフリカ、世界最貧国、内戦、先進国からの支援…だからといってここにはなにかお仕着せがましい政治的正しさや貧困への同情はない。「自分でつくる」ことの愉しみだけに閉じているわけでもない.そこに「自分のためにつくる」人が集まる真剣な楽しさがあるから、みなやってきて一緒に建築を作ろうとする。
雨風日射をしのぐだけのこの質素な小屋は、断熱も不要で雨季の激しい雨と乾期の強い日差しから子供たちを守る。材料費は1棟90万日本円程度。日本からキンシャサまでは黄熱病注射を打って飛行機を2回乗り換えて約24時間かけて行く。私が「3つのない」建築と呼んでいる、「最終形のない」「おしつけない」「精度のない」建築であるこの小学校は、これからも毎年一棟ずつ形を変えて建設され,今の1年生が6年生で卒業するときに完成予定だ。私たちはあせらない。

 

技術説明
●現地の素材でつくる
コンゴ民主共和国の建築は、一部の高所得者向けのもの以外は、コンクリートの柱梁とその間を埋める日干しレンガブロックの壁、木架構の小屋組、亜鉛メッキ波板葺きの屋根仕上げ、スティールサッシとシングルガラスの窓でできている。日干しレンガブロックは現場で手作りされているために形は不揃いで、木材も製材精度や管理が悪いために歪んでいる。このアカデックス小学校も現地の素材でつくることを条件としたため、こうした精度の低い素材を使うしか他に選択肢がなかった。ローカルな素材を使うためにいかにルーズな建て方にするか。それは必ずしもぞんざいにつくるということではなく、設計施工上はむしろより多くの工夫を必要とした。

●木造トラス構法の小屋組
小屋組は日本の構造エンジニアの協力のもとハサミ型断面の木造トラス構法を採用している。日干しレンガブロックの組積造は不安定で、現地では平屋は壁の高さを2,200mm程度に抑えるのが通例であったのでここでもそれは守り、壁の低さにも関わらず内部の有効高さを確保するためにこうしたハサミ型の断面を採用した。現地の慣習的構法では必要以上に太い材を用い高い室内をつくることができないのに対し、この作り方は空間に開放感をもたらす上に、慣習的構法より接合部が少なく施工も簡単である。現地における非慣習的構法を導入することで、慣習的構法にはない快適性や簡便性を獲得している。

●合板を使った家具
コンゴでは合板を国内生産していないようで、4x8版の12ミリ合板が50アメリカドル程度と高値である。しかし寸法精度が安定しており、同じ規格の家具を現地の人とたくさん作るのに有利だと判断したため、これをまとめて購入してスタッキングできる椅子と机を設計?製作した。1枚の4x8板から机が1つ椅子が2つとれる。台形平面なので円形に配置するなど使用上もさまざまに応用できる。

●「ここに相応しい建築」を目指す
第一棟目の校舎の施工は2008年7月、2009年7月,8月の三期に渡り、日本の学生と現地住民有志によって進められた。第一期の壁の施工と第二期の屋根建て方の準備は、日本で作成した図面をもとに現地住民有志のみで行われた。第三期の屋根建て方は、日本の学生6名と現地住民有志10名が参加し13日間行われた。現場では様々な困難に直面したが、日本人の機転とコンゴ人の身体能力の高さで何とか乗り切った。ここでは日本以上にフレキシブルに制約を受け入れ、計画を変える必要がある。だが、それは妥協による変更とは違う。土着的でも先進的でもない、「ここに相応しい建築」を目指すための更新なのである。




プロジェクト名:
コンゴ民主共和国アカデックス小学校
設計:慶應義塾大学SFC松原弘典研究室
設計担当:松原弘典、桑原寿記、立元遥子、楢原圭紘、篠田泰平
構造設計:ASA/鈴木啓
所在地:コンゴ民主共和国キンシャサ郊外キンボンド地区
敷地面積:2350平米
建築面積:52.8 m2(将来の増築によって850.7m2まで増加予定)
延床面積:52.8 m2(将来の増築によって850.7m2まで増加予定)
建築最高高さ:5420mm
軒高:2460mm
天井高:5200mm
階数:地上1階
構造:壁/日干しレンガブロック造、屋根/木造、杭 •基礎/コンクリートベタ基礎
外部仕上げ:屋根/亜鉛メッキ波板+塩ビ波板、外壁/日干しレンガブロック+モルタル薄塗り仕上げ、開口部/スティールサッシ+シングルガラス、外構/モルタル金ゴテ仕上げ
内部仕上げ:床/モルタル金ゴテ仕上げ、壁/日干しレンガブロック+モルタル薄塗り仕 上げ、天井/木架構あらわし
設計時間:2007年12月-2009年7月
施工時間:2008年7月-2015年8月(予定)
竣工時間:2015年8月(予定)
施工:慶應義塾大学SFC松原弘典研究室 •現地住民有志
施主:個人
撮影:落合賢